海老原未紅(エビハラミク)さん
慶應義塾大学 総合政策学部
星出直柔先生
坪田塾 町田校 講師
「合格発表前、まさか自分が本当に合格できていると思わなかった」と話すのは、現役慶應義塾大学生の海老原未紅さんです。現在、総合政策学部で熱心に学びながら、サークル活動にも励む毎日を過ごしています。
入塾後、SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)に照準を絞り、英語と小論文の勉強に打ち込みました。しかし、思うように結果が出ず浪人を経験。さらに、スランプに見舞われて塾に通えない時期もありました。
一筋縄ではいかない受験生活ながらも、数々の困難に打ち勝って逆転合格を勝ち取った未紅さんの軌跡を、担当講師の星出先生とともに振り返ります。
性格診断までしてくれる塾なら、寄り添ってくれると思った
未紅さんが塾探しを始めたのは、受験まで1年を切った高校3年生のはじめ頃。
大学受験の知識不足に気づき、このままではまずいと感じたのがきっかけでした。
「大学受験は高校受験と違って出願の選択肢も入試の出題範囲も広いですよね。残り1年しかない中で、何もわからず闇雲に自己流の勉強をしても効率が悪いだけ。時間が残されていないからこそ受験のプロにアドバイスをもらって、無駄なく勉強したいと考えて、塾に行くことを決めました」
塾選びには時間をかけ、説明会や体験授業にも参加しました。しかし、説明会で話しやすいと感じた先生が、実際の入塾後は担当にならないと分かったり、実際に体験授業してみたら違和感を抱いたりと、理想の塾を見つけるのは簡単ではありませんでした。
「塾選びで大切にしたのは、どれだけ親身になって私の受験のことを考えてくれるのか。というのも、自分で進め方を決められないって分かっていたので(笑)。最終的に坪田塾に決めたのは、性格診断テストを踏まえてアドバイスしてくれたから。一人ひとりにそこまでしてくれる塾なら、私に合った指導法をしてくれるに違いないと期待しました」
“子”別指導を掲げる坪田塾では、独自に開発した「9タイプ別性格診断テスト」で生徒さんの性格を9つのタイプに分類し、それぞれに適した声掛け・指導を行なっています。
未紅さんは、「献身家」と「芸術家」の両面を持つと診断されました。人のために働きたい気持ちと、自分独自の価値観を大切にする特徴が見られたのです。
「6人姉妹の長女として、何かあると『まあ、私が我慢したらいいか』と思うことがよくありました。と同時に、『周りのみんなと同じにしないでほしい』とも感じていて。診断結果を聞いて、なるほど確かにそうだなって納得でした」
受験のプロの方針に従うと決めていた
そうして坪田塾の門を叩いた未紅さんは、慶應SFCを目指すことになりました。
当時のことを、担当講師だった星出先生はこう振り返ります。
「もし難関大以上を目指したいという意向ならば、英語と国語の2教科で受験できる大学が適していると考えました。残り時間を考えると、歴史などの苦手科目の克服に力を注ぐより、ある程度土台ができている英語を伸ばしたほうが良いという判断でした」
その点も踏まえて、星出先生は「なるべくレベルの高い大学を目指す気持ちはありますか?」と意思確認を行いました。
未紅さんの答えはYES。
「であれば、英語と国語の2科目で受験できる大学の最上位である慶應SFCに照準を絞ろう、と提案したんです」
漠然とMARCH以上の大学には行きたいと考えていた未紅さん。星出先生から慶應に行こうと提案されたときどう思ったか尋ねると、自分が慶應を目指すことになるなんて考えたこともなかった、との回答が返ってきました。
「先生に言われて、必死に頑張ったら私も慶應に行ける……のかな?というくらいの感覚でした。でも、プロのアドバイスが欲しくて塾に来たんだから、先生のアドバイスは全部素直に受け入れようって考えていました」
はじめての過去問で、大きな二つの課題が浮き彫りに
夏休みが終わり9月になりました
星出先生のプランに従って、未紅さんは初めて慶應SFCの過去問に挑戦することになりました。
結果は予想以上に厳しいものでした。未紅さんは当時をこう振り返ります。
「本当に何を言っているのかがまったくわかりませんでした。頑張って読もうとしても内容が頭に入ってこない。ただただ圧倒されて終わったという感じでしたね」
また、普段の演習を見ていて、星出先生は未紅さんの解決すべき課題が大きく二つあると気づきました。
「一つは、問題を解くプロセスが短絡的になってしまうこと。解答の根拠をロジカルに説明できるようにならなければ、慶應のような難易度の高い大学の入試問題は狙って点数を取ることができません」
と星出先生は説明します。さらに、
「もうひとつは、勝手な解釈をしてしまうこと。英語において理論を誤解して、誤った知識を使って解いてしまったり、小論文において問題を誤読して、違う方向へ話を膨らませてしまったりする等の癖があったんです」
と、二つ目の課題を指摘しました。
この2つの課題は、最後まで未紅さんの大きな壁となり続けます。
しかし、この時点で問題点が明確になったことで、今後の学習の方向性が定まったとも言えます。
「未紅さんのコマ数はそこまで多くなかったので、私からのアドバイスできる機会が少なくなり、自習の質を十分に上げられない、実はそんな懸念もありました。ですが、そんな心配をよそに、未紅さんは限られた塾の時間とそこで得られるアドバイスを最大限に活用して頑張っていましたね」
実は未紅さん、限られた塾の時間の使い方を工夫していました。坪田塾の学習スタイルは、アウトプットが中心。生徒は決められた範囲を自分で予習し、塾ではチェックテストや講師とのディスカッションを通じて学んだ知識をアウトプット(表現)します。これにより、学習内容の定着を図ります。そういうスタイルなので、未紅さんは貴重な塾の時間を自習に使うのはもったいないと考えました。そこで、自習はすべて塾以外で行い、塾ではテストを受けることに集中しようと決めたのです。
「塾では徹底的にアウトプットを繰り返す」。実は、これこそが坪田塾が理想とする坪田塾の使い方なのです。知ってか知らずか、未紅さんは坪田塾を上手に活用し使いこなしていたのです。
「再テストになると解っていない箇所の見直しから始まるので時間を余計に使ってしまいます。それは避けたかったんです。そうならないように集中して予習に取り組んでいました」
自分の思考の癖に気づき、徐々に課題を克服
坪田塾では、学習内容の確認として、その日学んだことや間違えた問題について、先生が質問し生徒が答えるという時間があります。当初、未紅さんは先生たちからの質問に対し、自分の解答プロセスを上手く説明することができませんでした。
「長文読解の指導を受けている時に、最初は、自分が文章を我流に解釈していることに気づいていなかったんです。でも先生に指摘されて読み直すと、『あれ?そんなことはどこにも書いていない』ということが頻繁にあって。少しずつ星出先生の言っていることが分かってきました」
高校3年生の11月頃。
そのころから星出先生は未紅さんの進歩に手応えを感じ始めました。
問いかけに対し、「前回はこう間違えたから、今回はこう解いてみました」という筋道立った答えが返ってくるようになったのです。
受験直前には過去問で英語の得点が3〜4割まで上がりました。
星出先生は未紅さんの成長をこう評価します。
「学校の勉強をしっかり取り組んできたのだと思います。普通の大学ならそれまでの学習経験をベースに合格できたかもしれない。でも慶應は別格。レベルが全然違う。学習指導はもちろん、思考力の育成こそが私たち塾の腕の見せどころでした」
軌道修正してスランプに立ち向かう
現役での慶應合格は叶わず、未紅さんはSFC以外行きたくないという一心で、浪人という道を選択しました。
高3の1年間で参考書学習を一通り終え、振り返る余裕のあった未紅さんは、勉強量が点数に繋がらない状況に思い悩み、夏頃には塾に通えなくなってしまいます。
「何をやっても結果が出ないと、『お前には無理だ』って言われている気がして。どんどん自信をなくしていきました。勉強する気が起きなくなって参考書も見たくないし、自習もできない。自習ができていないから坪田塾のテストも解けるわけがない。だから塾に行きたくない、行っても仕方ないって思うようになって……。悪循環とわかっていたけれど、どうしても塾に行こうと思えなくて、休みがちになってしまいました」
そんな未紅さんに星出先生は粘り強く声をかけ続けました。
「実は未紅さんは受験勉強の傍らで、アルバイトも頑張っていたんです。だから『顔を出すだけでいいから』『話すだけでもいいからおいで』って声をかけていました」
自習ができていない状態でテストを受けても意味がない、だから塾では自習はしない、と固く心に決めて頑張っていた未紅さんですが、その思いが足枷になっていることに少しずつ気づき始めます。
「塾では絶対自習はしないって決めていたけど、とにかく塾に行って、手を動かすことから始めないとダメだ、もう一回頑張ろうって腹を括りました。そのあたりから少しずつ自習のペースも戻ってきて、軌道修正することができたような気がします」
少しずつ身についていた知識がようやく開花
その頃から未紅さんは、自分の成長を実感し始めます。
「参考書の小さな文字まで覚えられるようになって、知識がどんどん増えていることを実感できるようになりました。ただ、その知識を問題解決に使えていなかったんです。なぜだろうって自問自答して、問題を解くときの思考回路が正しい形になっていないってことに気づきました。そこに自分で辿り着けたのは、坪田塾で身につけた自己分析力のおかげだと思います」
坪田塾では、間違えた問題とその理由を「分析ノート」にまとめるよう指導しています。最初はうまく書けなかった分析ノートも、この頃からしっかり書けるようになっていました。
分析ノートが書けるということは、正しい思考力が身についている証拠です。時を同じくして、それまで歯が立たなかった問題も解けるようになってきました。
星出先生は言います。
「もしこの気づきが遅れていたら、合格までにもっと時間がかかっていたかもしれません。現役の時からの苦労と努力が布石として積みあがっていたことが大きかったですね。実は未紅さんに自信を失くしてほしくなかったので、あえて慶應の問題ではなく、慶應より少し易しい大学の問題から着手したりもしていました。そういう段階を踏んで、未紅さんが自分で自身の課題に気づき、自分の力で乗り越えていってくれたのです」
こうして受験直前、未紅さんはずっと41%以下だった英語の点数を55%前後まで上げることに成功します。
同じ問題と向き合い続けた、小論文との格闘
ところで、慶應SFCの受験には英語に加えて小論文も必要ですが、その対策はどのように進めていたのでしょうか?
「実はこれが私のもう一つのストレスの種だったんです。だって1年間ずっと同じ問題を書いていたんですよ」
と、未紅さんは苦笑い。
その真相を星出先生に問うと、これもまた、未紅さんの課題を解決するためのプロセスだったと答えてくれました。
「未紅さんには問いの意味を履き違えたり、論理が混乱したり、気になる言葉に引っかかって話を脱線させてしまう傾向がありました。これでは読み手は混乱して、何の話を書いているんだ?と戸惑ってしまいます。ただでさえSFCの小論文は資料が膨大で、書き終えるだけでも難しい。質の高い文章を書くには、しっかりとした訓練が必要不可欠でした」
問題に勝手な解釈を加えてしまいミスをする。これは、英語学習でも見られました。頭で考えることはできるのに、いざ書いてみると主題から外れた方向に行ってしまう。この点を妥協せず徹底的に改善するため、星出先生は根気強くアドバイスを繰り返しました。
「先生からは『読み手は未紅さんの気持ちを察することはできないから、論理的に説明しないと伝わらない』と。今ならその意味がわかるのですが、当時はあまりに同じ問題の繰り返しばかりで、細かすぎるよ……なんて思ったりしていました笑」
と未紅さんは振り返ります。
しかし、その「細かすぎる指導」が、受験本番で未紅さんの支えとなりました。
本番では、少し書いては立ち止まり、テーマから外れていないか確認しながら書き進めることができました。話を広げすぎる癖があったので、書くと決めたテーマに関する資料にだけ絞り込み、それ以外の資料は見ないようにも注意しました。
「自然と、「他の受験生より正しい日本語で正しく伝えられる」と思えたんです。だって先生の指導がめちゃくちゃ細かかったから(笑)。だから本番では質の高い文章が書けると信じて、時間内に書き終えることだけを考えました」
貴重な4年間を無駄にしないために
こうして晴れて慶應義塾大学に合格した未紅さん。「本当に合格できてると思わなかった」と思うほど、最後まで歯が立たなかったところから、2年越しの逆転合格です。
2浪も覚悟していたそうですが、「パソコンで合格を知ったときはうれしくて涙が出た」と朗らかに当時のことを教えてくれました。
「星出先生には直接報告しようと思って。『結果を言いに行きます』とだけメッセージしました。ポーカーフェイスで報告するつもりが、実際にはニヤニヤが止められなくて(笑)」
一方、そんな未紅さんの思いとは裏腹に、星出先生にとって未紅さんの合格は想定範囲内だったそうです。
「未紅さんは自信なさそうでしたが、最後の追い込み時期の成長を見ていると、他の受験生に負けてないと感じていました。英語は55%近く取れるようになっていたので、あとはより取れるであろう小論文を書き切ることができたら結構いい勝負なのではないかと思っていたんです」
現在、未紅さんはダンス、起業、農業と3つのサークルに所属し、充実した大学生活を送っています。ただ、履修登録に失敗し、本当に学びたかった授業が取れなかった、とポロリとこぼしました。
「入学前は4年間を絶対無駄にしたくないと思っていました。でも、合格に浮かれて履修の選抜課題の提出が間に合わなくて、抽選で応募できる科目しか取れなかったことが今年の反省点。来年は時間割をしっかり組んで、特に興味のある経営の勉強を深めたいです」
坪田塾での経験を活かし、限られた時間を効果的に使う術を身につけた未紅さん。
冷静に自己分析し、軌道修正ができる力は、2年間並走した星出先生の折り紙付きです。
きっと卒業する頃には、この4年間を有意義に過ごしたと胸を張って振り返っていることでしょう。
講師コメント
星出直柔 町田校講師
塾での指導時間は限られていましたが、未紅さんには機転を効かせて、自分で情報を集め、自分で学習を進められる力がありました。もし未紅さんが言われたことだけを考える生徒だったら、合格の道のりはもっと険しかったかもしれません。
慶應SFCのカリキュラムには、問題を深く分析し物事の構造の本質を捉える力、そして物事の価値や鋭い洞察を分かるように人に伝える力を求められる課題がたくさんあります。未紅さんは小論文の学習を通じて、それらの基礎を、そして英語の学習を通じて、世界の土俵で学問を学び、研究する基礎をすでに身につけています。自分の力で掴み取った合格に自信を持って、これからも大学生活を存分に楽しんでもらいたいですね。