村上華さん
サセックス大学 国際関係学 学士課程
福井裕介校長
坪田塾 車道校
イギリス屈指のリゾート地、ブライトンにキャンパスを構えるサセックス大学で、国際開発学を勉強中の村上華さん。華さんは高校1年生の時に、通信制高校に入り直した経験があります。その過程で坪田塾に出会い、サセックス大学に進学するまでの約3年間を坪田塾で過ごしました。
現在、大学の夏休みを利用して一時帰国中。そのあいだ、かつて通っていた車道校で講師のアルバイトをしているということで、坪田塾で過ごした日々のこと、勉強方法、そして現在の暮らしについて話を伺いました。
華さんの言葉の端々から感じた、学ぶことへの飽くなき探究心。いわゆる“王道”を歩まなくても、世界へ羽ばたくための翼を手に入れられると身をもって証明した華さんの、唯一無二の経験談です。
流されたら終わってしまう、という危機感
高校は国際教養科のある進学校を選んだ華さん。当時は、朝6時に家を出て、夜8時ごろに帰宅、そこから予習と復習をやり、テスト勉強をして、寝て起きて……という非常に忙しい毎日を送っていました。気づけば家族との時間も思うように取れなくなり、大好きなおばあちゃんと会うこともままならなくなっていたそう。
そんなとき、ひとつの印象的な出会いが華さんに訪れます。
「高1の夏休み前、通っている高校に留学してきた同い年の女の子のホームステイを受け入れることになりました。海外の人と生活を共にすることは初めての経験だったのですが、授業中に教科書に絵を描いていたり、遅刻してもまったく気にしていなかったりと、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。決められたことをその通りにやらない彼女にイライラして、出会った当初はもう喋りたくないって思っていたんです」
しかしあるとき、ホームシックで泣いている姿を見かけて以来、彼女に対する思いが変わったのだと言います。
「ああ、この子も寂しかったんだなって気づきました。わたしと同じ人間なんだなって。ちょっと冷たくしてしまったことも反省しました」
それ以来、彼女の自由な立ち居振る舞いを羨ましく思うようになったそう。
彼女はいつも楽しそうでいいな。
でもわたしはどう?楽しめているのかな?
華さんは自分の生活を思い返し、このまま高校でノルマをこなしながら勉強し続けて、本当にやりたいことが見つけられるのか、行きたい大学を選ぶことができるのか、疑問に思うようになります。
「先生も学校の雰囲気も好きだったけど、彼女との出会いをきっかけに、どんどん周りと価値観が合わなくなっていったんです。周りに合わせて自分もこの波に乗ったら、きっとわたしは流されてしまう。そうなる前に一回自分を止めないとヤバいんじゃないかって……」
そう思い始めると、朝起きられなくなり、やがて学校に通えなくなってしまいました。突然学校に行けなくなってしまうと、本人はもちろん、ご家族も焦ってしまい、関係性が崩れてしまうケースも少なくないですが、華さんは家族からのプレッシャーを受けることなく、自分と向き合うことができたそう。
それはお母さんが全てを受け入れてくれていたからだと話します。
「お母さんは、わたしの前では絶対に悲しい顔は見せませんでした。『どう?学校行く?行かない?』って明るく聞いて、わたしが行かないって言うと『いいよいいよ〜』って言ってくれるお母さん。そんなお母さんってあんまりいないんじゃないかな」
自習をサポートしてくれる塾が欲しかった
そんな華さんは、学校に行かなくなった高1の途中から塾探しを開始。そして3月にはお母さんの勧めで坪田塾に入塾しました。塾に行こうと思った理由を尋ねると、
「学校でもらった教科書やテキストは全部自分で勉強しちゃって、もうやることがなくなったから」
という驚きの回答が返ってきました。
華さんは学校こそ休んでいたけれど、勉強が嫌いだったわけではなく、むしろ勉強は好きでした。家にいるあいだ、手持ちの教科書を使って自宅学習を続けていたけれど、自分なりにやりきってしまった。だから、次に何をやればいいか教えてくれる塾が必要だったのだと言います。
集団で同じことを勉強する塾とは違い、坪田塾が個人個人に向き合ってくれる塾であるところも、華さんにとっての大きなポイントでした。
生徒ひとりひとりの個性と向き合う“子”別指導を行う坪田塾には、多種多様なバックグラウンドを持つ生徒たちが通っています。
塾に求めるものは人それぞれ。坪田塾は、「塾生の人生を応援する」を理念として掲げ、人の数だけある個性豊かな能力を伸ばすことを目指しています。
「面談してくれた先生は、『みんなこうしている』『他の生徒はああしている』といったことは一切言わず、“わたし”を主語にして、学習計画や勉強のアドバイスを話してくれました。あとは性格診断テストが楽しくて。そんな理由で入塾を決めました」
華さんが楽しかったと言ったテストとは、教育心理学を用いた坪田塾オリジナルの性格診断テストのことです。坪田塾では、そのテストにより塾生を9つの性格タイプに分類し、それぞれの性格に合った声掛けや指導を行っています。
華さんは、自分の感受性を大切にし、人とは違う価値観と、他の人が真似したくてもできない創造性を持ち合わせている「芸術家タイプ」でした。
芸術家タイプの生徒さんは「これ、君だけにしか伝えてないんだけど…」「このテキストってまだ他の生徒さんは誰もやっていないんだよね」など、特別感のある表現で指示を伝えると、モチベーションを高めやすいという傾向があります。
一方で、他人の気持ちに敏感で、やり方を強要されると途端にやる気が失せてしまうという特徴も。
芸術家タイプである華さんへの指導について、担当講師だった福井先生はこう振り返ります。
「物事の捉え方が他の人とは違っていて、独自の感性を持っている子だなというのが華さんの第一印象です。それがゆえに、周りの人と合わないと感じ、学校に行けなくなってしまったという話を聞いた時も、不思議ではありませんでした。でもそれって彼女の感性が個性的だからであって、決して悪いことじゃないんです。だから彼女の感性を否定しない、型にはめないと決めていました。あとは計画通りに進まなかったとしても細々と注意しないとか。逐一指示を出したりせずとも、ひとたび火が付けば、そのとたん一気に自分で進められるのが芸術家タイプなんです」
得意科目を活かし、まずは日本の大学を目指す
入塾テストの結果で英語の基礎(中学英語)は難なくクリアしていた華さん。学習は高校英語を定着させるところから始めました。
「華さんは高校英語も独学で学習していたようですが、網羅できていない部分もあり、そこはしっかりカバーしていくようにしました」(福井先生)
進学した高校が国際教養科だったことから分かるように、中学時代から英語は得意だった華さん。しかし国際教養科を選んだのは、英語が好きだったから、という理由ではないと言います。
「小さい頃の夢は、アフリカの民族と一緒に暮らすこと。だから英語が好きで国際教養科を選んだってわけじゃなくて、日本以外のことが知りたかったから、そういう学科を選びました」
そんな華さんの思考を考慮し、福井先生が最初にピックアップした日本の大学は東京外大と上智大でした。
「東京外大や上智大はどちらも、英語教育にも国際関係にも優れた大学です。当時はこの2校が彼女に合っているのではないかと考えていました」
国立の東京外大を受けるなら、センター試験(現共通テスト)の勉強が必須。そのため、途中からは数学、現代文、日本史を加えた4科目の勉強も始めることにしました。
通信制高校への転校、そして入塾半年で高校の勉強が終了
休んでいた学校を退学し、通信制高校の1年生からやり直す決心をした華さん。通信制高校1年生の夏休み頃には、高校のテキストがすべて終了。すでにセンター試験の過去問にチャレンジできる学力が身についていました。英語に至っては、初めて実施した過去問で7割、夏休みが明ける頃には8割くらいは取れるようになっていたそう。入塾からわずか半年足らずの出来事です。
「華さんは物事を感覚で捉える能力が非常に高かった。だからそこは活かしつつ、基本の部分を丁寧に言語化して、抜け漏れなく内容を理解できるようにサポートしていきました」
坪田塾では「反転学習」を採用しています。
多くの学校や塾では、授業でインプットしたものを、自宅での問題演習などでアウトプットするスタイルが主流ですが、坪田塾はその逆。まず担当講師が予習範囲を決め、塾生はそれに基づいて自宅学習をします(インプット)。そして塾では予習した部分のテストを受け、テスト後は学習範囲が正しく理解できているかのディスカッションを行います(アウトプット)。先生に対してアウトプットすることで、記憶の定着が高まり、理解度も深まるのです。
華さんの場合は、これまでの自学習や予習を通じて、感覚的にインプットした知識をアウトプットしてもらい、内容理解に齟齬や抜け漏れがないかどうかを、講師陣とのやり取りの中で逐一確認していきました。
華さんの坪田塾での学習は、1日2時間の週3回。塾にいる間はずっとテストを解き、アウトプットに励んでいました。
「予習でできるだけ学習を進めて、塾ではとにかくテストを受けていました。1回でどこまで進めたら先生はビックリするかな?ってよく考えてましたね」
予習(インプット)の量が増えれば1回で受けるテストの量も増えます。華さんの企み通り、福井先生は大量のテストを前にうれしい悲鳴をあげる日々。結果、通常よりも随分と早いペースで学習を進めることができたのです。
「もちろん家にいるあいだずっと勉強ができていたわけじゃありませんでした。気分がすぐれなくて家で寝てばかりのときもあれば、塾に通えなかった時期もあって。でもわたしは、面白いなって思えたら休憩なしでずっと勉強し続けられるタイプ。終わったらまた次の課題が来るからそれが面白かったんです」
赤本や英字新聞を教科書代わりに、英語力を磨く
2020年が明けてから、世の中はコロナウイルス一色になってしまいます。そんな未来が訪れようとは世界中の誰もが想像すらしていませんでしたが、華さんも同じで、通信制高校1年生の終わりの春休み、2020年3月にアイルランドへの短期留学を計画していました。しかし、華さんの計画は頓挫してしまいます。
「本気で長期留学について検討し始めたのはもっと後のことだけど、今思うと、その頃からちょっとずつ留学を視野にいれるようになっていたのかもしれません」
当時はまだ日本の大学に照準を当てており、英語以外の勉強も継続していました。
通信制高校2年のゴールデンウィーク頃から福井先生のすすめで赤本を使った学習を始めます。
「語彙力の確認なら同志社、文法の確認なら立命館、文脈の確認なら関西学院や関西大学というふうに、赤本を教材のように使うことを提案しました。1日に1年分の過去問を解いていたので、それも案外早く終わってしまって、次にやったのは英字新聞を読むことと、語彙を増やすことだったね。単語帳も好きに選んでいいよって伝えたら、私も知らない単語の勉強をしていて、よく驚かされていました」
「実は英字新聞は、もっと以前から福井先生に勧められていたんです。でもめんどくさくて、ずっと後回しにしてて(笑)。いよいよこれはもうやるしかないって思って、新聞を取って読み始めました」
他にも福井先生は洋書の文法書を紹介したり、英単語は和訳ではなく英語の類義語で覚えるようにアドバイスをしたり、ぐんぐん上がっていく華さんのレベルに合わせた指導を行いました。
そうした努力が身を結び、華さんの英語力は“新しいことを知れるから長文読解は読むのが楽しい!”と思えるレベルに到達します。
「長文読解の問題って、内容がちゃんとしている文章だから、読めば新しい知識が身に付くじゃないですか。それが楽しかったんです。本やニュースを読むような感覚です。よく家に帰ってお母さんに『〇〇って知ってる?』ってテストで読んだ文章の内容を話していました」
開発学との出会いと、留学への決意
通信制高校2年の終わり頃にかけて、学問について改めて調べ直し、興味のある国際関係学に辿り着きます。
「国際関係学について調べると、イギリスが発祥の学問だということがわかりました。さらにイギリスでは国際関係学、開発学、平和学の3つに分かれていて、その説明を読むとわたしがやりたいのは国際開発学だと気づいたんです。そこで開発学が学べる日本の大学を見ると、どの大学も4年間英語の授業が必修で、文法を学ぶ、会話を学ぶ、それを4年間やる、と書いてある。大学に行ってまでまたそれを繰り返すのかと思うと、時間がもったいないと感じて。留学すれば、日本の大学で英語の授業を受ける時間を、他の勉強にあてることができるのではないかと思ったんです」
加えて日本の大学だと、入試の段階で勉強したい地域(学科)を選ばなければならず、その制度も疑問だったと言います。その頃から福井先生とのあいだでも、留学というワードが出てくるように。
「華さんの良さは型にはまらないこと。彼女と長い時間坪田塾で過ごして、よりそれを実感していました。東京外大や上智大もいい大学だけど、それでも彼女を型にはめてしまうのではないかという思いも出てきて。そこで、留学するのも良いかもしれないね、という話をするようになりました」
華さんは坪田塾での学習と並行し、留学に向けてIELTSの勉強も開始することにしました。
そして通信制高校3年の5月頃に休塾を決めた華さんに、福井先生は華さんの英語力を買って、講師としてアルバイトをすることを提案します。そこから留学までは、塾生としてではなく、アルバイト講師として坪田塾と関わりながら、着々と留学の準備を進めていったのです。
開発学との出会いと、留学への決意
坪田塾で学習を続けていた成果が身を結び、留学に必要なIELTSのスコアも難なくクリア。華さんは2022年9月にサセックス大学に入学しました。
1年目が終わり、現地では熱心な先生や様々なバックグラウンドを持つ友人に恵まれ、今の生活はとっても楽しいと教えてくれました。
「ここはとにかく自由。大学の図書館は24時間開いていて、ソファもあって仮眠を取ることもできる。1日中勉強していてもOKなんですよ。それにみんな違う服装をしてるし、顔も違ってて、そんな中にいるのがとにかく楽なんです。1回高校を辞めて1年生からやり直したことを話しても、向こうの人たちはふーんって感じで気にも止めない。すごく心地いいですね」
イギリスに渡ったことで、より広い視野が身についた華さん。イギリス国内にとどまらず、今月末にはパキスタンへ、そして年内にはトルコに行く計画もあるのだと教えてくれました。
「開発学を学ぼうと決める前から、紛争地に興味がありました。これから行きたい場所は、イラク、アフガニスタン、パレスチナ。今はネットがあって現地に行かなくても情報が入ってくるけど、だからこそ知ってしまったら何かしないといられない。飛行機に乗れば行ける時代に、行かない選択はないから」
その思いは、言語学習にも大きな影響を与え、英語以外の言語学習をスタート。フランス語は日常会話なら読むことはできるようになったそうで、ウルドゥ語やトルコ語もリスニングの勉強を始めたとのこと。
「もし他の国の言葉が読めたら、現地のニュースが読める。それはつまり、みんなより早く情報を知ることができるってこと。そんなワクワクすることってないですよね」
華さんの話を聞いていると、高校に通い、受験勉強し、国内の大学に進学するというルートが、単なる1つの選択肢に過ぎないことに気付かされます。
もし仮にどこかでつまずいてしまったとしても、大多数の人とは違う道のりを選んだとしても、自分の味方でいてくれる存在があり、正しい努力を十分量やり切ることができれば、必ず自己実現していくことは可能なのです。
坪田塾に通ってよかったなと思っていることを尋ねると、華さんはこう答えてくれました。
「坪田塾は、生徒に教科書を渡して終わりじゃなくて、生徒ひとりひとりと向き合ってくれる塾。教え方から進め方、順番まで生徒によって違うから、わたしだけのことを考えて指導してくれているんだなっていう特別感がありました。
人と同じことをするのが嫌なわたしにとって、型にはめられないのがよかったのかな。いろんな先生がいるけど、わたしには坪田塾が合っていたし、担当の先生が福井先生でよかったなって思います」
講師コメント
福井裕介 車道校校長
華さんの感性を大切にし、とにかく一番の味方でいようと考えていました。また、華さんのお母さまの存在も大変大きく、華さんを理解し、味方で居続けてくれたことにとても感謝しています。
華さんは“楽しい”と“楽”を履き違えていない生徒でした。困難も楽しさの一部にできてしまう人なんです。いろんなことがある日々を自分なりに消化して、最終的に「あー楽しかった!」と言える華さんのことを、すごいなあと思って見ていました。
イギリスでの暮らしや、大学で勉強していることを聞くと、彼女の将来に期待が膨らみますね。その前に私の英会話の先生になってもらいたいと思っているので、まずはそれが直近の楽しみです。